言うまでもなく、SEの仕事はチームワークが重要である。業務要件とシステム要件のすり合わせやそこから実際の開発工程に落としプログラムを製造し、テストを行ってリリースする。これらの流れの中で大小さまざまなタスクが存在し、ステークホルダーも多岐にわたる。
そうした中で、チームとして最大の成果を上げるためには、役割分担が不可欠である。本稿では、チームで大きな成果を出すための秘訣ともいえる、「比較優位」という考え方について紹介したい。
「比較優位」とは
比較優位(ひかくゆうい)とは、元々は経済学における概念であり、貿易で自国の強みに集中することで相対的に高い生産性を上げることができる、という理論である。
一言で言うと・・・
比較優位の考え方を一言で説明すると、「それぞれが得意なことを担当することで全体の生産性が高まる。」という考え方である。少し乱暴な解釈だが、私たちの仕事に活かすためには、上記の理解で問題ないだろう。
また、「比較優位」な仕事とは、ある相手と成果物の交換が可能な場合に、自分のほうが得意な仕事である。
具体例をもとに考えてみる
これだけではわかりづらいため、例を見てみよう。
同じチームで仕事をする若手SEのAさんとベテランSEのBさんが1人月の工数で実施可能なタスクの量が下図の場合を考えてみよう。
Bさんは、ベテランSEであるためプログラムの作成においても、企画書の作成においてもAさんと比較して多くの成果物を作成することが可能である。これをBさんはAさんに対して両方のタスクにおいて「絶対優位にある」という。
図. AさんとBさんが1人月あたりに実施可能なタスク量
では、AさんとBさんはプログラム作成と企画書の作成の、どちらを担当するのがチームとして良いのだろうか。
具体的なケースをもとに考えてみよう。まずは、Aさんが企画書の作成を行い、Bさんがプログラムの作成を行うケースについて取り上げる。
図. Aさんが企画書の作成を行い、Bさんがプログラムの作成を行うケース
この場合、それぞれ1人月を投下した際のチームとしての成果物は、プログラム7本と企画書2本となる。
では次に、役割分担を逆にしたケースとして、Aさんがプログラムの作成を担当し、Bさんが企画書の作成を担当した場合について考えてみよう。
図. Aさんがプログラムの作成を行い、Bさんが企画書の作成を行うケース
この場合では、チームとしての成果物は、プログラム5本と企画書6本となる。
図. 各ケースでの成果物
役割分担が違うとチームとしての成果物の数が異なることはわかるが、プログラムや企画書の品質がどちらのケースでも同一だと仮定した場合、チームとしての成果はどちらが大きいのだろうか。
比較のため、同じ条件で合計3人月働いた場合を元に考えてみよう。
図. 各ケースでの成果物(3人月分)
AさんとBさんがそれぞれ3人月働いた際のチームとしての成果物の数は上図のとおりだが、AさんとBさんのそれぞれの立場から、成果物の数を考えてみよう。
図. AさんとBさんそれぞれの立場から見た成果物数
Aさんから見ると、ケース1で自分の成果物は企画書6本であり、ケース2ではプログラム15本となる。
ではここで、ケース2で成果として出したプログラムのうち7本を、Bさんの成果である企画書6本と交換が出来ると仮定しよう。なぜなら、Bさんにとって、プログラム7本と企画書6本は、どちらも自分が1人月の工数を投下することで作成可能な成果物であり、等価であるためである。
図. Bさんの成果物を交換する場合の比率
ここで、ケース2においてAさんのプログラム7本と、Bさんの企画書6本を交換するとAさんの成果物は企画書6本とプログラム8本になる。
図. Aさんの成果物とBさんの成果物を交換
図からもわかるように、Aさんの立場から見ると、ケース1と比較してケース2のほうがプログラム8本分だけ、多くの成果物を出していることになる。
つまり、Aさんにとってはケース2の、プログラムの作成に注力したほうが成果が高いということになる。
同様に、Bさんから見たケースを考えてみよう。
BさんからもAさんの成果物とBさんの成果物を交換できると仮定した場合、Aさんにとって企画書2枚とプログラム5本は共に1MMの仕事量で作成できる仕事として等価である。
図. Aさんの成果物を交換する場合の比率
上記の比率に従うと、Bさんの企画書10枚はAさんのプログラム25本を交換できることになる。
※Aさんの成果物がマイナスになるが、今回はBさんの出す成果を考えるため、Aさんの成果物は3か月分を超えて交換できるものと考える
図. Bさんの成果物とAさんの成果物を交換
こうしてBさんの立場から見てもケース2、つまり企画書の作成に集中したほうが多くの成果を出せることがわかった。
何故Bさんのほうがプログラム作成にも企画書の作成にも優れているにもかかわらず、このような結果になるのかというと、AさんとBさんの間で成果の交換が可能である場合は双方にとって相対的に得意な仕事をするほうがそれぞれにとっての成果は大きくなるためだ。
そして、AさんとBさんが同じチームである場合は、チーム全体としての成果は当然交換可能(役割分担可能)であるため、二人がそれぞれ相対的に得意な仕事を分担するほうが、全体としての成果は高まることになる。
この、「相対的に得意な仕事」こそが、相手に対して「比較優位」にある仕事なのである。
図. Aさんはプログラムの作成に、Bさんは企画書の作成が比較優位にある
「比較優位」の考え方を現場に活かすために
それでは、私たちが「比較優位」の考え方を現場に活かすためには、どうすればよいのだろうか。こちらも、自分の置かれた状況に応じて考える必要があるため、ケース毎に考えてみよう。
[ケーススタディ]
・自分がプロジェクトに配属されたばかりの場合
自分がプロジェクトに配属されたばかりで、仕事に習熟していない場合は「自分にできること」を率先して探して取り組んでいくことが大切だ。自分はまだ出来ることが少なく、新しい仕事をするには効率性が低い場合がある。そういった場合は、これまでの経験が活かせる仕事や、自分が得意な領域の仕事を選んで実施することで、チームに貢献することができる。
先輩や上司が行っている仕事で自分に出来ることを積極的に巻き取ってゆく姿勢が必要なのである。
・自分がプロジェクトの中核メンバー(リーダーやマネージャーなど)の場合
自分がプロジェクトの中で経験も豊富で、様々な仕事を手際よくこなせる中核メンバーである場合は、「人に振れる仕事が無いか考える」ことで、チーム全体の生産性を向上させることができる。
同じ現場で習熟してくると、仕事の経験値が高まり人に頼むよりも自分がやったほうが早い、と考えがちだ。しかし、チーム全体の成果を最大化するためには多少、スピードは落ちても部下や後輩に仕事を渡して、自分は自分にしか出来ない仕事に注力すべきである。
まとめ
「比較優位」という考え方は、チームで仕事をする上で非常に重要だ。自分ができること、やるべきことを意識して仕事を適切に取捨選択し、権限を委譲することが出来るようになれば、チームとしてより大きな成果をあげられるようになるだろう。
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